| 君に愛の月影を
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アメリカ映画がアクションなら、イギリスはホラー、フランスが恋愛、イタリアがウエスタンで日本は怪獣というのが一般的な世界映画ジャンル地図なんだけど(ほんまかいな)、何年か前にジャン・レノに「コメディは好きですか?」と質問したことがある。フランスにも面白いコメディがいっぱいあったから。ルイ・ド・フィネスとかジャン=ポール・ベルモンド、『クレイジー・ボーイ/金メダル大作戦』なんかのレ・シャルロもいたし。ジャン・レノも『おかしなおかしな訪問者』や何本かのコメディ映画に出演してた。で、答えは当然「もちろん!」。でも、その後の会話がかみ合わない。
「昔は舞台に立ったこともあるし、今も機会があればぜひやってみたい」とかなんとか……。なんかヘンだなあ、と思ったら、通訳の人が教えてくれたんです。 というわけで『君に愛の月影を』です。1969年のフランス映画。日本では3年ぐらいしてから公開されました。 フランスの田舎の小さな村アンジュヴァンに住むマリー(マルテ・ケラー)は村長の娘。村中の人が彼女は村の小学校の教師ガブリエル(フィリップ・ルロワ)と結婚すると思ってる。彼女も、見た目は地味でもチェロをたしなみ自転車レースが趣味の彼を憎からず想ってる。でもマリーには、村以外の世界を見てみたいという夢がありました。で、彼女は海辺の町で開かれる「ミス青い海」コンテストにエントリー。見事にグランプリに輝いてしまうんです。ちょうどそこへ現れたのが、カジキマグロを追ってフィッシュボートで大西洋を渡ってきてしまったアメリカのハンサム大金持ちマックパワー。不在の間に(五度目の)妻に家出されてしまって世間体が悪いので、誰でもいいから結婚してしまえ、ということになり、ミスコン優勝者のマリーに近づくわけ。なにしろ、お金はあるから、花火は打ち上げるわ、ビーチに町中の靴屋は呼びつけるわ、ヘリコプターでアンジュヴァン村へ挨拶にまできてしまう。マリーが半分意地悪で「カバが好きなの」と口にすると、「うちのプールで飼ってるよ」と写真まで見せる始末。それでも「やっぱりこの村が好きなの」と断るマリーに、今まで女性にふられたことのないプレイボーイの征服欲は燃え上がり、ついには村長や村人を説き伏せてアンジュヴァン村をそのままニューヨークへ移転させてしまう(!)。 ガブリエルひとりフランスに残して、アメリカへ移った村人がそれまでとまったく同じ生活を続けるところがすごくいいんです。釣り好きの老人はいつものようにつりへ出かけブルックリン・ブリッジから釣り糸をたらし、いつもと同じようにアーティチョークの葉っぱの根本を少しかじるだけで残りはなげ捨てる(車がスリップして大事故に!)。でも、村の向こうには自由の女神が見え、真上をジェット機が飛んでいく……。 フランスはアメリカ文化排斥を唱えたりしたこともある頑固な国だけど、そんなフランスの意地というか気概がこの映画にも込められています。アンジュヴァンでは村長が映画館の館長&映写技師も兼ねているんですが、ニュース映画でベトナム戦争の様子が出てくると「資本主義のプロパガンダはしないぞ!」と上映は中止。毎朝の新聞も検閲して破廉恥な記事は切りとっっちゃう……。 ハリウッド製コメディみたいに大きなギャグがあるわけでも、トンチンカンなキャラクターがバカ騒ぎするわけでもないから、大笑いはできないんだけど、登場人物のひとりひとりの行動や性格に細やかな演出がほどこされているからおもわずニヤリ。そう、ジャック・タチの映画も同じでしょ。これぞ、フランスの劇映画。つまり、コメディ。ラブ・コメなんです。 ビデオはワーナーから10年くらい前に出ましたが今は廃盤みたい。貸しビデオ屋さんで探してください。結局、フランスへ戻ったマリーにマックパワーがお別れに送った贈り物は……。ラストがまたフランス風に洒落てるんです。でも、あんなもんもらっても困るだろうな。 もし『君に愛の月影を』がみつからなかった場合、かわりにゼヒお勧めしたいフランス映画は『タキシード』。男ふたり女ひとりの三人組の泥棒のお話。笑えます。でも「深い」。本当の意味の「ラブ・コメディ」なんだよね。え? こっちも廃盤? |
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